人間の傲慢に気付かされる『エネルギーをめぐる旅』

最近のカーボンニュートラルの気運もあり、エネルギーに関心を持っている人は多いと思います。
気候変動による自然災害の激甚化や、エネルギー安全保障の問題など、足元でエネルギー問題の重大さを感じることが多くなりました。
答えのないこの問題について、考えるヒントになる本の紹介です。

『エネルギーをめぐる旅ー文明の歴史と私たちの未来』 古舘恒介 英治出版

今人類が直面しているエネルギー問題は大きく分けて、エネルギー源としての化石燃料が将来的に枯渇することと、化石燃料からエネルギーを取り出す際に排出される温室効果ガスによる気候変動の問題の2点があるようです。
子どものころ学校で習った記憶では、前者のほうが強調されていたように思いますが、最近では気候変動の影響が顕著になって人間の生活を脅かしている状況で、後者がより喫緊の課題になっています。

本書を読む前の私にとってエネルギー問題の認識は上記のもので、エネルギーの未来と言われれば『化石燃料の消費を減らして再生可能エネルギーを活用すること』『そのために再生可能エネルギーのコスト競争力を上げ、また安定的なエネルギー供給をできるようにする』というようなイメージを持っていました。

「エネルギー」の概念がかわる

本書では火の利用から始まるエネルギーと人類との関わりの歴史が幅広く紹介されています。
ヒトの脳は大量のエネルギーを求めるようにできているらしく、脳の要求に答えるため、様々な技術革新がなされてきました。
本書の中でも『エネルギー』という概念のとらえどころのなさについて語られ、共通の定義がないまま議論されていると指摘されているのですが、確かにエネルギーとはなにかと言われると難しいなと感じました。
これについて気づいたことが、一番の収穫でした。
議論の対象がぼんやりしたまま、『エネルギーを大切につかおう』と言っても具体的に有効な対策は取れないですもんね。

個人的に盲点だったと思ったのは、食料の生産に大量のエネルギーが投入されているという事実です。
従来土地が支えられる限界だった人口以上の食料を生産するため、現代では大量のエネルギー(肥料の生産や農業機械)が投入されている。
特に、牛肉には大量のエネルギーが投入されているということが、本書で何度か紹介されていました。
大豆ミートとかって健康志向のためだと思っていたけれど、エネルギー問題にも貢献するものなんですね。
私はフードロスが生理的に嫌で、残さず食べる、食べられる分だけ買う、というのを意識しているのですが、『投入されたエネルギーをありがたくいただく』という観点でも、これからも心がけていきたい。

技術革新がエネルギー問題を解決するのか

火の利用から始まり、技術革新で大量のエネルギーを利用し、人口を増やして文明を築いてきた人類、現在顕在化しているエネルギー問題も、技術革新で乗り越えることができるはず。
そう楽観的に考えていたところがあり、冒頭で書いたように再エネがその鍵になると思っていました。

これに対して、本書で指摘されているのは『地球に降り注ぐ太陽エネルギーは実質無限に思えるが、人類以外の生物も含めて、利用されていないエネルギーなどない』という事実です。
日本で期待される再生可能エネルギーである洋上風力発電にしても、周辺の生態系への影響は大きいという話は聞いたことがありました。
太陽光パネルの廃棄の問題も最近では聞こえてくる話です。

化石燃料を使わないことや発電時の温室効果ガス排出量だけを取って、再エネが『環境に優しい』と信じ込んでしまうのは、傲慢なことなのだと思います。
気候変動に対する直近で現実的な対応として再エネに取り組むことは必須なのだと思いますが、こうした自然環境への影響をしっかり認識した謙虚な姿勢でいることが第一歩だと感じます。

大量のエネルギーを追求するとは、時間を早回しすること

人間の脳は大量のエネルギーを追求するようにできていて、人類は技術革新でそれに答えてきた。
大量のエネルギーを投入することで何を実現したかというと、共通するのは『時間を早回しすること』だといいます。
火を使って調理することで食事の時間を短縮したところから始まり、農作業の時間を短縮し、移動の時間を短縮し、コンピュータによって情報処理の時間も短縮してきている。
これってなんだかしんどくない?という著者の問いかけ。
私は大きくうなずいてしまいました。

エネルギーの量を追求することから、本来の体のリズムにあった生活をすることで、限られたエネルギーで満足することを心がけていけないか、ということが提案されています。
ヒントになるのは江戸っ子のくらし、ということで、この本が紹介されています。
積読がなくなったら読んでみよう。

エネルギーについて幅広い教養が身につく本

『エネルギーをめぐる旅』というタイトルにふさわしく、最近話題に挙がる気候変動の問題などにとどまらず、科学技術の発展から歴史や宗教と、エネルギーを取り巻く話題が幅広く解説されていて、読み物としてもとても面白い本でした。
この本から派生していろいろなことに関心を持つきっかけにもなると思います。
最後の読者へのメッセージもいい意味で期待を裏切る感じで、『それならできるよ』と思えることなので、とても好感がもてました。

みんなどんな本読んでるのかな?

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